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雲上富士

板を見ているとなぜか妄想のように映像が浮かび上がる。

これもそのうちの一つだ。

甲府盆地の南端の地で育った。

西山(櫛形山)の向こうに白い山が覗いていた。遥かに遠いあちらの世界に見えた。あの向こうにどんな世界が広がっているだろうと子ども心に思った。

今、その白い山の名前はもちろん知っている。北岳、間の岳、農鳥岳を擁する白根三山だ。日本屈指の高さを誇る名山だ。北岳は日本で二番目に高い山、間の岳は奥穂高岳と並んで三番目の高さを誇る。今住む我が家からはその日本一から第二、第三位の山が見えている。三山が一番魅力的に見えるのは冬の姿だ。

 奥白根かの世の雪をかゞやかす  前田普羅

この至福。

山小屋でアルバイトをしている先輩が二人いた。学校に入ってすぐの夏、北岳に登るという。有無を言わさずの決行で引きずられるようにして登った。

「ここまで来たから5分休む、リックを下してはいけない、立ったままの休憩だ」その言葉が何度か続いた後長い休憩が来た。急な登りを登りきった小さな池のある場所だった。そこからまた心臓をパクパクさせる登りを登りきると尾根に出た。もう三千メートルに近い。天空の散歩のように尾根を歩く。雲は下にも上にも見える。そして、最後の岩場を這いつくばるようにして頂上に立った。何時間かかったか記憶にはないが早朝に麓を出て、昼前に頂上に着いた。

3,193mの山頂は四界の山々を従えるように聳えていた。天下を取ったような、征服したような高揚感に浸った。それまでの疲れは嘘のように吹き飛んでいた。

ふと、南東の方向を見ると雲の向こうの地平線上に富士があった。高い、高い、富士は高い、雷に打たれたようなショックだった。実際見える富士は地平線からわずかに出た台形の姿だったのにもかかわらずそう見えたのだ。

「山の高さはね。他の山に登ってみるとその高さが解るものだ」と言った高校教師の言葉を思い出した。 あれから夏には何度も北岳に登った。いつも富士は雲上にあった。